骨粗しょう症重症化予防プロジェクト

はじめに

令和元年5月に成立しました、医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等 の一部を改正する法律に基づき、令和2年4月より、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施(一体的実施)が施行されます。

一体的実施には、以下の3つの一体的実施があります

①高齢者保健事業と介護予防の一体的実施
②高齢者保健事業と国民健康保険保健事業の一体的実施
③市町村と後期高齢者医療広域連合の一体的実施

弊社がデータヘルスのご支援をしている市町村のご担当者様より、一体的実施として、何をすれば良いかというお問い合わせを多くいただいています。
そこで、弊社がご支援した、一体的実施に係る先行的な取組について、自治体様のご了承を得て紹介します。一体的実施に取り組む自治体保険者様のご参考になれば幸いです。

まずは、上記3つの一体的実施のうち、①から③を網羅した事例として、広島県呉市様の骨粗しょう症重症化予防プロジェクトについてご紹介いたします。

呉市 骨粗しょう症重症化予防プロジェクトについて

【背景】人生100年時代に対応した全世代型社会保障の構築

国は、人生100年時代に対応した全世代型社会保障の構築のために、人生100年時代の安心の基盤となる健康寿命の延伸・生産性の向上として、II.健康寿命延伸等に向けた保健・医療・介護の充実を掲げている。

(出典)厚生労働省 令和2年度予算案の概要P.3より抜粋

【背景】健康寿命延伸について

健康寿命延伸については、経済財政運営と改革の基本方針2019において、健康寿命延伸プランの推進の中で、健康寿命延伸プランを推進し、2040年までに健康寿命を男女ともに3年以上延伸し、75歳以上とすることを目指すことが明記されている、重要な課題である。

健康寿命は、「日常生活に制限のない期間の平均」より求められる。補完指標として、要介護2以上を「不健康」と定義した「日常生活動作が自立している期間の平均」を利活用する(健康寿命のあり方に関する有識者研究会報告書(平成31年3月)より)。

(出所)健康寿命のあり方に関する有識者研究会報告書(平成31年3月)より抜粋

【背景】要介護・要支援者と原因となる疾病について

平成28年国民生活基礎調査における介護を必要とする主な原因によると、総数において、上位5位の原因として、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患が挙げられる。上位5位の原因のうち、脳血管疾患(脳卒中)、骨折・転倒、関節疾患等は、データヘルスの概念の下で、保険者の保健事業としてある程度の疾病対策が可能な疾患である。

(出所)平成28年国民生活基礎調査よりデータホライゾン作成

※日常生活の自立の状況
①何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出できる
②屋内での生活はおおむね自立しているが、介助なしには外出できない
③屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが座位を保つ
④1日中ベッド上で過ごし、排せつ、食事、着替において介助を要する
総数は上記①+②+③+④+不詳

(出所)平成28年国民生活基礎調査よりデータホライゾン作成

【背景と目的】呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト

呉市後期高齢者医療 介護度別医療費の状況(H27)

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

骨粗しょう症・骨折を防ぐことで呉市民のQOLの維持、向上と健康寿命の延伸への寄与を目的とする。

呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクトの結果

デノスマブ処方者数・処方の継続と骨折の有無

骨粗しょう症病名かつデノスマブ処方のある者で2年後の処方継続の有無別の骨折発生状況は処方継続有りの場合6.5%、処方継続無の場合12.0%であった。

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

介護要因原疾患調査結果(抜粋)

平成29年度医療レセプトデータ、介護保険データに介護保険主治医意見書を突合(9,438件)

主治医意見書記載数上位5位傷病名(診断名1)

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

主治医意見書記載傷病名(上位5位)別一人当たり医療費・患者数の状況(診断名1,全体)

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト 実施スキーム(H29年度より開始)

実施スキーム

呉市地域保健対策協議会(骨粗しょう症地域包括医療体制検討小委員会)と連携

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

H30年度呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクトの結果(啓発事業)

広く骨折予防のための啓発,骨密度測定等を行う市民参加型のイベントを開催

1.骨粗しょう症予防教室

地域住民の集まる場所などで骨粗しょう症予防に関する普及啓発を実施した。

回数:7回
人数:462人

2.骨粗しょう症健康相談

骨粗しょう症予防についての個別健康相談の実施

回数:24回
人数:1,226人

3.職能団体又は市民団体への研修

骨粗しょう症や骨折予防に関して職能団体や市民団体に情報提供・普及啓発することで、他分野との予防意識の共有を図った。

日時:
平成31年2月2日(土) くれ絆ホール
対象団体:
介護関係者(呉市介護支援専門員連絡協議会、呉市社会福祉施設連絡協議、広島県訪問介護事業連絡協議会(広島南ブロック)、各地域包括支援センター等)
テーマ:
「『骨粗しょう症』に着目した介護予防・重症化予防について」
参加者:
93人

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

講演会

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

展示・体験コーナー

介護用ロボット、介護のための口腔ケア、骨折・転倒予防のための介護福祉機器等の展示

来場者からのアンケート結果では講演内容について
「大変役に立った」又は「役に立った」との回答が8割以上であり

自由記入欄には

「歯科と骨粗しょう症と内服薬の関係性は知らず勉強になった」
「服薬継続の大切さが分かった」
「骨粗しょう症が社会全体に与える影響を含めもっと市民に知ってもらうべき」
「介護者の介護時の注意事項がよく分かった」

等の記述があり、他分野との予防意識の共有を図るという本取組の目的は、一定程度達成できたと考える。

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト(H29 受診勧奨事業)

骨粗しょう症の治療を受けていたが、治療が中断されていると思われる者に対し受診勧奨を実施

1.対象者

呉市国民健康保険被保険者又は呉市在住の後期高齢者医療制度被保険者であって,診療報酬明細書から傷病名に骨粗しょう症が確認でき,かつ,骨粗しょう症治療薬の処方が7か月以上ない者のうち,次の条件に該当する者を対象者とする。

①一次骨折予防対象者(骨粗しょう症重症化予防)

骨折の既往がない者のうち,デノスマブの投与が中断された者でビスホスホネートの投与に切り替えのない者又は切り替え後に投与を中断された者
実施方法:ダイレクトメールの送付

②二次骨折予防対象者(再骨折予防)

大腿骨近位部骨折の既往がある者
実施方法:ダイレクトメールの送付後,電話又は訪問による受診勧奨

2.受診勧奨文書発送時期

平成30年1月末

3.評価時期

平成31年1月(平成30年1月~11月診療分のレセプトを確認)

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

治療の継続支援:治療中断者への受診勧奨 フロー図

共通条件

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクトの結果

H29年度骨粗しょう症受診勧奨事業の評価

骨粗しょう症の治療を受けていたが,治療が中断されていると思われる者に対し,通知・訪問等で受診勧奨を実施。
受診勧奨後11か月分のレセプトにて受診再開の有無を確認。

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

分析事業

本プロジェクトを推進していくうえで必要な分析・調査を,専門医の協力により実施。

骨折者数割合の年次推移

大腿骨頸部・骨転子骨折では,国保・後期共に大きな増減はなく,全体でも0.7%→0.8%で推移。
椎体骨折では,特に後期高齢者医療で0.7%増加(H26年度比)し,合計においても0.6%増加。

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

口腔ケアの促進 歯ッピースマイル65 平成30年度開始

口腔の健康維持は虫歯や歯の喪失予防につながるだけでなく、歯周病と関連の深い糖尿病などの血管系疾患の重症化予防,誤嚥性肺炎や認知症予防といった全身の健康につながることから、生涯を通じた歯科保健の充実が必要。

歯ッピースマイル65事業概要

高齢者の口から食べる楽しみの支援を充実させることを目的とし、歯周疾患や口腔機能低下、肺炎の疾病予防、骨粗しょう症の早期発見及び健康管理等に資するため、当該年度65歳に到達した者に歯科検診を実施。

対象:
呉市に住所を有する65歳の者(満65歳の誕生日から満66歳になる前日までの1年間)
内容:
歯周病検診、パノラマX線撮影診断
受診者:
239人(受診率8.9%)
スクリーニング判定:
骨粗しょう症の疑い有り 5人(うち4人が医療機関に紹介あり)

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

ゆるきゃら

歯周病検診啓発ポスター

広島県呉市について

広島県呉市の概要

人口

223,685人(R1年度当初)
うち国保加入者 42,842人(人口の約19%)

高齢化率

34.8%(参考:全国27.3% H28.10月 )
高齢者人口:77,922人(後期高齢医療被保険者数 42,476人)
呉市国保加入者の高齢化率:57.0%%
<参考>
平成29年度:呉市 56.6%(広島県 47.2% 全国38.6% H28年度)
介護認定率(平成30年9月末): 呉市17.6%(広島県19.3% 全国18.3%)

医療の状況

大規模病院の存在400床以上の病院が3機関
一人当たり医療費(平成29年度):45万9千円 (県の1.13倍,国の1.28倍)

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

大和ミュージアム

大和ミュージアム

鉄のくじら館

鉄のくじら館

健康管理増進システム

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

呉市地域総合チーム医療

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

医療・介護・健康データの一元化による呉市高齢者への保健事業イメージ

(出所)呉市福祉保健部福祉保健課

組織横断的な取組

データヘルス事業(国保保健事業)、地域支援事業(地域包括ケア・在宅医療・介護連携推進事業)、地域保健事業(衛生部局)

本プロジェクトの振り返りと今後の展望について

本プロジェクトの振り返りと今後の取組について

呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクトにおいて、骨折既往歴を有する者、骨粗鬆症を罹患者のレセプトデータより判明する受療の状況によりリスク階層化を行い、リスクに応じた介入を行うことの有効性が呉市福祉保健部の尽力により、示唆された。加えて、成果を追求するためには、医師会、歯科医師会や薬剤師会、事業者の協力を得ることが重要であるが、呉市が長年かけて構築した関係性を元に、本プロジェクトのために尽力された呉市の各担当の方々があって、今回のように初年度から成果が示されたと考えられる。

本プロジェクトにおける、リスク度に応じた対策のうち、一次骨折予防(骨粗しょう症重症化予防):骨折の既往がない者のうち、骨粗しょう症治療薬の投与が中断された者への医療機関再受診勧奨や二次骨折予防対象者(再骨折予防):大腿骨近位部骨折の既往があり、骨粗しょう症治療薬の投与が中断された者への医療機関再受診勧奨においては、いずれも再受診開始者の骨折率が低減していることは、特筆に値する。これは、医師会、歯科医師会、薬剤師会の先生方の円滑なご支援なくしては実現できなかったと考えられる。

今後、データホライゾンとしては、呉市で得た事業推進の知見やノウハウ、呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクトの成果を基に他市町村への横展開を図る予定である。また、本年4月より改正法の施行により、「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」の観点から、国民健康保険制度、後期高齢者医療制度や介護保険制度の横断的な取組に対応した事業実施、分析・効果測定の支援を実施する予定である。

加えて、今回の呉市との取組の経験を活かして、現在複数の市町村国保のご支援の下で、他疾患への横展開も取り組んでいる。

データホライゾンの目指すデータヘルスについて

地域医療を巻き込み、適正医療の実現を通して、データヘルスのアウトカムの最大化を図る。
これにより、被保険者、患者の健康寿命の延伸に貢献し、保険者、医療従事者、事業者等すべての利害関係者が利する形を構築する。

データホライゾンの目指すデータヘルスについて

健康に暮らせる未来を創る

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